資産除去債務②~会計処理~

資産除去債務
  1. 認識時点
  2. 算定
    • 割引前将来CFの見積もり
    • 割引率
  3. 除去費用の資産計上と費用配分
  4. 時の経過による調整額の処理
  5. 見積もりの変更
    • 割引前将来CFの見積もりの変更
    • 割引前将来CFの見積もりの変更による調整額に適用する割引率

認識時点

 資産除去債務は、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって発生したときに負債として計上します。

 なお、資産除去債務の発生時に当該債務の金額を合理的に見積もることができない場合には、資産除去債務を計上せず、当該債務額を合理的に見積もることができるようになった時点で計上します。

算定

資産除去債務は、それが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来CFを見積もり、割引後の金額(割引価値)で算定します。

割引前の将来CFの見積もり

割引前の将来CFは、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づく自己の支出見積もりによります。その見積金額は、生起する可能性の最も高い単一の金額(最頻値)又は生起し得る複数の将来CFを各々の発生確率で加重平均した金額(期待値)とします。

使用する割引率

資産除去債務の算定に際して用いられる割引率は、将来CFが発生すると予想される時点までの期間に対応する貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の割引率とします。

除去費用の資産計上と費用配分

資産除去債務に対応する除去費用の資産計上の方法としては、以下の2つが考えられます。

関連する有形固定資産の帳簿価額に加える方法関連する有形固定資産とは区別して別の資産として計上する方法
会計処理資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務を負債として計上したときに、当該負債の計上額と同額を関連する有形固定資産の帳簿価額に加えられる。
(有形固定資産)×× (現金預金)××
           (資産除去債務)××
資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務に関連する有形固定資産とは区別して把握し、別の資産(ここでは「長期前払費用」とする)として計上される。
(有形固定資産)××(現金預金)××
(長期前払費用)××(資産除去債務)××
論拠この方法による会計処理は、有形固定資産の取得に付随して生じる除去費用の未払の債務を負債として計上すると同時に、対応する除去費用を当該有形固定資産の取得原価に含めることにより、当該資産への投資について回収すべき額を引き上げることを意味する。すなわち、有形固定資産の除去時に不可避的に生じる支出額を付随費用と同様に取得原価に加えた上で費用配分を行い、さらに、資産効率の観点からも有用と考えられる情報を提供するものである。この方法は、除去費用の資産計上額が有形固定資産の稼働等にとって必要な除去サービスの享受等に関する何らかの権利に相当するという考え方や、将来提供される除去サービスの前払い(長期前払費用)としての性格を有するという考え方を論拠とする。

 ここで、関連する有形固定資産とは区別して別の資産として計上する方法において資産として計上される除去費用(「長期前払費用」とした部分)は、法律上の権利ではなく、財産的価値もありません。また、独立して収益獲得に貢献するものではありません。このことから、「資産除去債務会計基準」では、関連する有形固定資産の帳簿価額に加える方法が採用されました。

 すなわち、資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務を負債として計上した時に、当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加えます。そして、資産計上された資産除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分します

時の経過による調整額の処理

 時の経過による資産除去債務の調整額は、その発生時の費用として処理します。当該調整額は、期首の負債の帳簿価額に当初負債計上時の割引率を乗じて算定します。

 なお、この調整額は退職給付会計における利息費用と同様の性格を有するものといえます。

見積もりの変更

割引前将来CFの見積もりの変更

資産除去債務の見積もりの変更から生じる調整を会計上どのように処理するかに関しては、以下の3つの方法が考えられます。

プロスペクティブ
アプローチ
キャッチアップ
アプローチ
レトロスペクティブ
アプローチ
資産除去債務に係る負債及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して、減価償却を通じて残存耐用年数にわたり費用配分を行う方法資産除去債務に係る負債及び有形固定資産の残高の調整を行い、その調整の効果を一時の損益とする方法資産除去債務に係る負債及び有形固定資産の残高を過年度に遡及して修正する方法

 ここで、会計上の見積もりの変更については、国際的な会計基準において、将来に向かって修正する方法が採用されていることに加え、日本における現行の会計慣行においても、耐用年数の変更については影響額を変更後の残存耐用年数で処理する方法が一般的であることなどから、プロスペクティブ・アプローチにより処理することとされました。

 具体的には、割引前将来CFに重要な見積もりの変更が生じた場合の当該見積もりの変更による調整額は、資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理します。

割引前将来CFの見積もりの変更による調整額に適用する割引率

 割引前将来CFに重要な見積もりの変更が生じ、当該CFが増加する場合、新たな負債の発生と同様のものとして、その時点の割引率を適用します。

 他方、当該CFが減少する場合には、負債計上時の割引率を適用します。

今回は以上です。