- 数理計算上の差異
- 過去勤務費用
- 差異の費用処理
- 規定
- 会計処理
退職給付会計の差異の種類には、①数理計算上の差異と②過去勤務費用の2つがあります。
数理計算上の差異
定義:数理計算上の差異とは、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更などにより発生した差異のことです。
なお、このうち当期純利益を構成する項目として費用処理(費用の減額処理又は費用を超過して減額した場合の利益処理を含む)されていないものを「未認識数理計算上の差異」といいます。
また、数理計算上の差異の取り扱いには、以下の2つの考え方があり、我が国の「退職給付会計基準」では、重要性基準の考え方が採用されています。
これは、退職給付債務が長期的な見積計算であることから、重要性による判断を認めることが適切と考えられたからです。
回廊アプローチ | 重要性基準 | |
意義 | 退職給付債務等の数値を毎期末時点において厳密に計算し、その結果生じた計算差異に一定の許容範囲(回廊)を設ける方法 | 基礎率等の計算基礎に重要な変動が生じない場合には計算基礎を変更しない等、計算基礎の決定にあたって合理的な範囲内で重要性による判断を認める方法 |
共通点 | 基礎率の変動が財務諸表に与える影響を緩和する。 | 同左 |
相違点 | 1.退職給付債務等の数値を毎期末時点において厳密に計算する。 2.計算の結果生じた数理計算上の差異の累積額のうち、一定の許容範囲(回廊)を越えた部分のみを、その後の期間において費用処理する。 | 1.一定の範囲を越える重要な基礎率の変動が生じた場合にのみ、計算基礎の変更を行う。 2.計算の結果生じた数理計算上の差異の全額を、その後の期間において費用処理する。 |
特徴 | 退職給付債務等の数値を毎期末時点において厳密に計算するため、実務上の負担が多い。 | 一定の範囲を越える重要な基礎率の変動が生じない場合には、計算基礎の変更を行わないため、簡便。 |
過去勤務費用
定義:過去勤務費用とは、退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給 付債務の増加又は減少部分のことです。
なお、このうち当期純利益を構成する項目として費用処理(費用の減額処理又は費用を超過して減額した場合の利益処理を含む)されていないものを「未認識過去勤務費用」といいます。
差異の費用処理
差異の費用処理には、大きく以下の2つがあります。
- 発生した時点において費用とする考え方
- 発生した時点に全額費用とはせず、一定の期間にわたって一部ずつ費用とする考え方
退職給付会計基準では、以下の理由により上記②の考え方を採用しています。
数理計算上の差異について | 過去勤務費用について |
数理計算上の差異には、予測と実績の乖離のみならず予測数値の修正も反映されることから、各期に生じる差異を直ちに費用として計上することが退職給付に係る債務の状態を忠実に表現するとはいえない面があり、数理計算上の差異の性格を一時の費用とすべきものとして一義的に決定づけることは難しいと考えられるためである。 | 過去勤務費用の発生要因である給付水準の改訂等は、従業員の勤労意欲が将来にわたって向上するとの期待のもとに行われる面があり、過去勤務費用を一時の費用とすべきものとして一義的に決定づけることは難しいと考えられるためである。 |
費用処理の方法
原則:各年度の発生額について平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分する方法(定額法)
容認:未認識過去勤務費用残高及び未認識数理計算上の差異残高の一定割合を費用処理する方法(定率法)
費用処理の開始時期
差異の発生年度より費用処理を開始します。
ただし、数理計算上の差異については、実務上の便宜から、発生年度の翌期から費用処理することも認められています。
費用処理の年数
過去勤務費用及び数理計算上の差異は、各期の発生額について、平均残存勤務期間以内の一定の年数で費用処理しなければなりません。この場合、一定の年数にわたる費用処理には、発生した期に全額を費用処理する方法も含まれます。
なお、平均残存勤務期間以内の一定の年数は継続的に適用する必要があり、一度採用した費用処理年数を変更する場合には、合理的な変更理由が必要となります。
会計処理
当期の費用処理額の会計処理
数理計算上の差異に係る当期の費用処理額及び過去勤務費用に係る当期の費用処理額については、退職給付費用として、当期純利益を構成する項目に含めて計上します。
未認識部分の会計処理
数理計算上の差異の当期発生額及び過去勤務費用の発生額のうち、費用処理されない部分(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用)については、税効果を調整の上、その他の包括利益を通じて、純資産の部におけるその他の包括利益累計額に「退職給付に係る調整累計額」等の適当な科目をもって計上します。
そして、その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行います。
なお、当期に発生した未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用並びに当期に費用処理された組替調整額については、その他の包括利益に「退職給付に係る調整額」等の適当な科目をもって、一括して計上します。
改正の経緯は?
「旧・退職給付会計基準」では、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用については貸借対照表に計上せず、これに対応する部分を除いた、積立状況を示す額を負債(又は資産)として計上することとされていました。しかし、一部が除かれた積立状況を示す額を貸借対照表に計上する場合、積立超過のときに負債(退職給付引当金)が計上されたり、積立不足のときに資産(前払年金費用)が計上されたりする可能性があるなど、退職給付制度に係る状況について財務諸表利用者の理解を妨げているのではないかという指摘がありました。
そこで、「退職給付会計基準」では、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を、税効果を調整の上、純資産の部(その他の包括利益累計額)に計上することとされ、積立状況を示す額がそのまま負債(又は資産)として計上されることとなりました。
今回は以上です。