マルチプル分析②

マルチプル分析の第二回ということで、今回は財務データの選択に関して見ていきます。

類似会社のデータによるマルチプル分析の際の財務データには、将来予測財務データと実績財務データの二通りがある。将来予測財務データを用いるのが基本であるが、実績財務データを用いる場合もある。

 

将来予測財務データ

  • データ量と精度
    • 将来予測に関しては、アナリストカバレッジの問題がある為、Bloomberg/CapitalIQ等でデータがない場合も多い。
    • ただし、アナリストカバレッジがされていない会社は、十分な市場流通量等が確保されていない場合も多く、類似会社の数が十分な場合は、将来予測が取得可能であることを、一定のデータスクリーニングとすることも一つの方法である。
  • バリュエーションのロジックとの整合性
    • M&Aの買い手は買収時点以降の利益が享受可能であり、実績利益は基本的に売り手に帰属する。その為、ロジックとしては将来予測を用いるのが基本となる。
  • Normalize分析
    • 財務の予測値は経営者の希望的観測や意思、いわゆる計画の「お化粧」が含まれており、実績から大きく成長している場合は留意が必要。
    • この点、財務DDがなされている場合は、財務DDにおけるNormalized EBITDA分析と将来の前提を比較することで予測の合理性について検討することが重要。
  • マルチプル分析との整合性
    • 財務数値予測は一定の成長を織り込んでいる為、マルチプル分析・対象会社評価において、各々使用する年度を統一するのが原則。

 

実績データ

  • データ量と精度
    • 上場企業である限り、実績データの入手は可能であり、客観的なデータである。
    • 個社の財務実績は様々な要因により大きく変動するが、類似企業分析では統計処理を行う為、計算誤差は小さくなる。
  • バリュエーションのロジックとの整合性
    • M&Aの買い手は買収時点以降の利益が享受可能であり、実績利益は基本的に売り手に帰属する。その為、ロジックとしては将来予測を用いるのが基本であり、ヒストリカルデータを使用する場合は、将来の成長性の違いに留意が必要。
    • ただし、マチュアな業界等で成長性の違いよりも継続的な実績データに基づく方が合理的な場合、データのアベイラビリティの問題等がある場合は実績データを用いることもある。
    • また、会計上の公正価値評価におけるマルチプル等、恣意性の排除に重要性がある場合についても用いられることがある。
  • Normalize分析
    • 財務の実績は様々な要因により大きく変動する。マルチプル分析の考え方として「継続的な利益水準」を予測するにあたり、Normalizedの分析が必要となる。
    • この点、財務DDがなされている場合は財務DDにおけるNormalized EBITDA分析の利用が可能となる。
  • マルチプル分析との整合性
    • 財務数値予測は一定の成長を織り込んでいる為、マルチプル分析・対象会社評価において、各々使用する年度を統一するのが原則。

 

今回は以上です。次回は、類似会社の選択に関して見ていきます。