- 必要性
- 基本的な考え方
- 定義
- 従来の取り扱い
- 資産除去債務会計基準の考え方
必要性
国際的な会計基準のように、有形固定資産を除去する際に法令又は契約で要求される支出を資産除去債務として負債計上するとともに、これに対応する除去費用を有形固定資産に計上する会計処理は、従来の日本基準には取り入れられておりませんでした。
ところが、日本でも有形固定資産の除去に関する将来の負担を財務諸表に適切に反映させることは投資情報として役立つという指摘があり、また、会計基準のコンバージェンスの観点からも、資産除去債務の会計処理を整備する必要性が生じるようになりました。そこで、現行の「資産除去債務会計基準」が公表されました。
基本的な考え方
定義
資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものです。
従来の取り扱い
従来、日本では「固定資産の解体、撤去、処分等を行う場合の支出額の取り扱い」という形で議論されており、以下の2つの見解があります。
① 残存価額=耐用年数到来時の売却価格又は利用価格 ー 解体、撤去、処 分等に係る支出額
解体、撤去、処分等に係る支出も、取得原価と同様、固定資産による収益獲得に貢献すると捉えると、費用収益対応の観点から、その利用期間に渡り費用化すべき、と考えられます。そこで、解体、撤去、処分等に係る支出額を、耐用年数到来時の売却価格又は利用価格から控除することにより、減価償却費総額に含め、固定資産の耐用年数に渡って減価償却手続きにより費用化します。
なお、これまで残存価額がマイナスになるような処理が基本的に想定されていなかったことや、実務上の残存価額の決定は法人税法の影響を強く受け、取得原価の10%とされてきたことなどから、この処理は実務上、適用されていませんでした。
② 残存価額=耐用年数到来時の売却価格又は利用価格
解体、撤去、処分等に係る支出も、取得原価と同様、固定資産による収益獲得に貢献すると捉えると、費用収益対応の観点から、その利用期間に渡り費用化すべき、と考えられます。ただし、減価償却は、あくまでも過去の支出額である取得原価を費用配分する手続きであり、将来の支出額である解体、撤去、処分等の支出を現価償却総額に含ませるべきではない、と考えられます。そこで、残存価額は耐用年数到来時の売却価格又は利用価格とした上で、解体、撤去、処分等に係る支出額については、別途、引当金を設定し、固定資産の利用期間に渡って費用化します(引当金処理)。
なお、引当金の計上の要否に関する判断規準や、将来において発生する金額の合理的な見積方法が必ずしも明確ではなかったことなどから、この処理は、これまでの実務上、広くは行われてこなかったと考えられます。
資産除去債務会計基準の考え方
次のような検討を経て、現行の「資産除去債務会計基準」では、資産負債の両建処理を行うこととなりました。
引当金処理 | 資産負債の両建処理 | |
資産除去債務の負債計上 | 有形固定資産の耐用年数到来時に解体、撤去、処分等のために費用を要する場合、有形固定資産の除去に係る用役(除去サービス)の費消を、当該有形固定資産の使用に応じて各期間に費用配分し、それに対応する金額を負債として認識する考え方がある(引当金処理)。こうした考え方に従うならば、有形固定資産の除去などの将来に履行される用役について、その支払いも将来において履行される場合、当該債務は通常、双務未履行であることから、認識されることはない。 | 法律上の義務に基づく場合など、資産除去債務に該当する場合には、有形固定資産の除去サービスに係る支払いが不可避的に生じることに変わりはないため、たとえその支払いが後日であっても、債務として負担している金額が合理的に見積もられることを条件に、資産除去債務の全額を負債として計上し、同額を有形固定資産の取得原価に反映させる処理(資産負債の両建処理)を行うことが考えられる。 |
除去費用との関係 | 引当金処理に関しては、有形固定資産に対応する除去費用が、当該有形固定資産の使用に応じて各期に適切な形で費用配分されるという点では、資産負債の両建処理と同様であり、また、資産負債の両建処理の場合に計上される借方項目が資産としての性格を有しているのかどうかという指摘も考慮すると、引当金処理を採用した上で、資産除去債務の金額等を注記情報として開示することが適切ではないかという意見もある。 | 引当金処理の場合には、有形固定資産の除去に必要な金額が貸借対照表に計上されないことから、資産除去債務の負債計上が不十分であるという意見がある。また、資産負債の両建処理は、有形固定資産の取得等に付随して不可避的に生じる除去サービスの債務を負債として計上するとともに、対応する除去費用をその取得原価に含めることで、当該有形固定資産への投資について回収すべき額を引き上げることを意味する。この結果、有形固定資産に対する除去費用が、減価償却を通じて、当該有形固定資産の使用に応じて各期に費用配分されるため、資産負債の両建処理は引当金処理を包摂するものといえる。 |
今回は以上です。