退職給付会計③~確定給付制度の会計処理~

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貸借対照表

 退職給付債務から年金資産の額を控除した額(つまり、積立状況を示す額)を負債として計上します。ただし、年金資産の額が退職給付債務を超える場合(年金資産の積立超過が生じた場合)には、資産として計上します。

 積立状況を示す額について、負債となる場合は「退職給付に係る負債」等の適当な科目をもって固定負債に計上し、資産となる場合は「退職給付に係る資産」等の適当な科目をもって固定資産に計上します。

退職給付債務

 定義:退職給付債務とは、退職給付のうち、認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたもの

 なお、退職給付債務の概念には、①確定給付債務(VBO)、②累積給付債務(ABO)、③予測給付債務(PBO)の三種類があります。「退職給付会計基準」では③予測給付債務(PBO)が採用されています。これは、実際の退職給付の支払いは退職時の退職給付額に基づいて行われることから、将来の昇給等を考慮しない場合には、退職給付の実態を財務諸表に適切に反映することができないと考えられるためです。

計算手続き:退職給付債務は、退職給付見込額(退職により見込まれる退職給付の総額)のうち、期末までに発生していると認められる額を割り引いて計算します。

 なお、退職給付債務は原則として、個々の従業員ごとに計算します。ただし、勤続年数、残存勤務期間、退職給付見込額等について標準的な数値を用いて加重平均等により合理的な計算ができると認められる場合には、当該合理的な計算方法を用いることができます。

①退職給付見込額の算定

 従業員が将来のいつの時点で退職するかを正確に把握することは困難です。そのため、退職給付見込額は、期末時点から定年年齢に至る各時点(予想退職時期)ごとに、その時点で退職した場合の退職給付の額を算定し、これにその時点で退職する確率を乗じるといった期待値計算を行うことによって算定します。

 具体的には退職給付見込額は、予想退職時期ごとに、従業員に支給されると見込まれる退職給付額に退職率及び死亡率を加味して見積もります。また、退職給付見込額の計算において、退職事由(自己都合退職、会社都合退職等)や支給方法(一時金、年金)により給付率が異なる場合には、原則として退職事由及び支給方法の発生確率を加味して計算します。

 なお、退職給付見込額は、合理的に見込まれる退職給付の変動要因を考慮して見積もる必要があります。例えば、予想退職時期ごとの退職給付の額は、一般に各企業の退職金規定に基づいて、退職時点での給与月額や退職事由等により左右されることになるため、退職給付見込額の見積もりにおいて合理的に見込まれる退職給付の変動要因には、予想される昇給等が含まれます

②退職給付見込額のうち期末までに発生したと認められる額の算定

 期末時点の企業の負担となるのは、退職給付見込額の全額ではなく、期末までに労働が提供されて発生している分のみです。そのため、退職給付見込額のうち、期末までに発生したと認められる額を算定する必要があります。

 ここで「退職給付会計基準」では、退職給付は従業員が提供した労働の対価として支払われる賃金の後払いであると考えられていることから、当該期末までに発生したと認められる額は、従業員の労働の対価を合理的に反映する方法を用いて計算する必要があるといえます。

 この点、「退職給付会計基準」では、従業員の労働の対価を合理的に反映する方法として、次の方法が規定されており、いずれかの方法を選択適用することとされています。

  1. 期間定額基準
    • 退職給付見込額について全勤務期間で除した額を各期の発生額とする方法
  2. 給付算定式基準 
    • 退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積もった額を、退職給付見込額の各期の発生額とする方法 

 なお、国際的な会計基準において給付算定式基準が採用されていることから、「退職給付会計基準」では給付算定式基準が導入されることになりましたが、その際、給付算定式基準に変更すべきか、すなわち、「旧・退職給付会計基準」で原則的な方法とされていた期間定額基準について廃止すべきか否かが議論されました。

 検討の結果、期間定額基準が最適とはいえない状況があったとしても、これを一律に否定するまでの根拠はないことや、また、国際的な会計基準では、キャッシュ・バランス・プランを含めた一部の制度に対する給付算定式に従った方法の適用が不明確なため、この方法の見直しが検討されていることを踏まえ、適用の明確さでより優れていると考えられる期間定額基準についても、給付算定式基準との選択適用という形で認めることとされました。

③割引現在価値に基づく退職給付債務の計算

 退職給付見込額のうち期末までに発生したと認められる額は、基本的に将来の退職時点における給付現価額として計算されていますが、退職給付債務は、それが決済されるまでの期間が非常に長いため、貨幣の時間的価値を考慮に入れるべく、割引計算を行います

 そして、この割引計算は、信用リスクや年金資産の運用利回り等とは関係なく、純粋に貨幣の時間的価値のみを反映させるために行われるものであるため、退職給付債務の計算における割引率は、安全性の高い長期の債券の利回り(長期の国債、政府機関債及び優良社債の利回り)を基礎として決定することが求められています。

今回は以上です。