マルチプル分析③

マルチプル分析の第三回ということで、今回は類似会社の選択に関して見ていきます。

 

まず始めに、よくある間違いが「類似会社を探せばいいんだろ。じゃあ事業が似ている会社を探せばいいよな」というものです。

しかし、これは大きな間違いです!

 

類似会社を選択する目的は、評価対象会社と「事業が類似している会社」を探すことそのものではなく、「マルチプルが類似する会社」「割引率(β、D/Eレシオ)が類似する会社」を探すことです。

 

ここで、事業特性とマルチプルの関係について例を挙げて説明致します。

 

例えば、米国国債の利率が2.5%とすると、この国債の時価は毎年のリターンの40倍となる。つまり、市場は米国政府が債務不履行になる状況のリスクのみであれば、40倍のマルチプルを受け入れていることになる(毎年2.5%貰うかわりに、その元本の40倍で買うと考えるとイメージしやすい)。リスクのある債券になればなるほど利率が高く(マルチプルが低く)なるが、株式のマルチプルも基本的には同様の考え方となる。

すなわち、事業収益の安定性が高い企業(電力、鉄道、インフラ等≒D/Eレバレッジが高く設定できる企業)であればマルチプルは高くなり、事業収益の安定性が低い企業ではマルチプルは低くなる。平たく言うと、「事業の収益安定性を考慮すると、年間利益の何倍まで出せますか?」というのが基本的な考え方。

 

 

最後に、事業特性以外のマルチプルに影響のある要素に関して列挙致します。

  • 国・地域が異なれば、基本となるファンダメンタル(インフレGDP成長率、産業成長性)等は異なる為、、マルチプルの水準は異なる。
  • 企業規模が大きくなると、全体の収益の安定性が高まる傾向があり、マルチプルの水準に影響する。(DCF法におけるサイズプレミアム)
  • 収益率が高い程、市場環境の変化に対して収益の安定性が高まる傾向があり、マルチプルの水準に影響する。
  • 対象事業の成長性が市場平均の成長性と異なれば、マルチプルの水準に影響する。

 

今回は以上です。次回は、類似会社選択の基本的な手順に関して見ていきます。